第107章 変わりゆくもの<肆>
「琵琶女、無惨様はいらっしゃらないのか」
そんな彼を無視して、猗窩座は鳴女に尋ねれば、彼女は再び琵琶をかき鳴らすと、淡々とした声で答えた。
「まだ御見えではありません」
「なら上弦の壱はどこだ。まさか、やられたわけじゃないだろうな」
猗窩座がそう尋ね、鳴女が答えようと口を開いたときだった。
「おっとおっと、ちょっと待っておくれよ猗窩座殿!俺の心配はしてくれないのかい?」
二人の会話を遮るような、場違いに明るい声が響くと、猗窩座の肩を抱く様に一本の手が乗せられた。
「俺は凄く心配したんだぜ!大切な仲間だからな。だぁれも、欠けて欲しくないんだ俺は」
そう馴れ馴れしく声を掛けるのは、【上弦の弐】と刻まれた青年の鬼、【童磨】だった。
「ヒョッ、童磨殿・・・」
玉壺はその姿を見て、微かに顔をしかめながらも挨拶をした。すると童磨は、満面の笑みを浮かべながら、彼に手を振り返した。
「やァやァ、久しいな玉壺。それは新しい壺かい?綺麗だねぇ。お前がくれた壺、女の生首を生けて飾ってあるよ、俺の部屋に」
虫も殺さぬような笑顔で悍ましいことを言う童磨に、玉壺は困惑しながらもまんざらでもなさそうに答えた。
「あれは首を生けるものではない・・・。だがそれも、またいい」
「そうだ、今度うちに遊びにおいで!」
童磨は、まるで友人を誘うかのような口ぶりで玉壺にそう言うと、彼のすぐそばで猗窩座は不快そうに口を開いた。