第107章 変わりゆくもの<肆>
琵琶の音が鳴り響き、上弦の参、猗窩座は目を見開いた。そこには、上下左右が部屋や階段で埋め尽くされた、奇妙な異空間があった。
その場所の名は【無限城】。鬼の始祖、鬼舞辻無惨が棲む場所であり、鳴女と呼ばれる女の鬼が管理する場所だ。
その場所に呼ばれた猗窩座は、それがどういうことを意味するのか理解していた。
(上弦が鬼狩りに、殺られた)
猗窩座が顔を上げると、その中心で鳴女が琵琶を三度、掻き鳴らした。その音に彼が顔をしかめると、どこからか笑い声が聞こえてきた。
顔を向ければ、そこには装飾を施された壺が一つ置いてあり、声はその中から聞こえていた。
「これはこれは、猗窩座様!いやはや、お元気そうで何より。九十年ぶりで御座いましょうかな?」
壺の中から現れたのは、目のある部分に口があり、口のある部分に目があり、体中から手が生えた異形の鬼だった。
その目には【上弦・伍】と刻まれており、名を【玉壺(ぎょっこ)】と言った。
「私はもしや、貴方がやられたのではと、心が躍った・・・、ゴホンゴホン!心配で胸が苦しゅう御座いました」
そう言う玉壺だが、その顔は笑っており気づかいなどは微塵も感じられなかった。
「怖ろしい、怖ろしい。暫く会わぬ内に、玉壺は数も数えられなくなっておる」
二人とは別な声が聞こえ、猗窩座が顔を向ければ、そこには手すりにしがみ付き、小刻みに震えている老人の鬼がいた。
頭には大きなこぶがあり、その傍らには鬼の象徴ともいえる角が二本生えていた。
目を閉じているため、数字は見えないが、彼も上弦の鬼の一人であり、【上弦の肆】の【半天狗】という鬼だ。
「呼ばれたのは百三十年振りじゃ。割り切れぬ不吉な数字・・・、不吉な丁、奇数!!怖ろしい、怖ろしい・・・」
半天狗は手すりを固く握りしめながら、ぶるぶると全身を震わせていた。