第106章 変わりゆくもの<参>
一面を雪が真っ白に染めた、山の中。
太陽の光を反射して幻想的に光るその中を、覚束ない足取りで動く小さな影があった。
目を凝らしてみれば、それは1歳ほどの男児で、体格的に似つかわしくない程の大きな籠を抱えながら、ふらふらと歩いていた。
籠の中身はよく見えないが、小さな体には重すぎる程のものが入っているのだろう。
すると、男児は籠が重かったのか、足をもつれさせ今にも転びそうになった。それを見た"誰か"は、慌てて駆け寄りその体を支えた。
『大丈夫か?』
"誰か"が声を掛けると、男児は小さく息を整えながら顔を上げた。小さなその目には、真っ青な髪と目が写った。
『ありがとう、あおいおねえちゃん。でもだいじょうぶだよ』
男児はそう言って雪の上に立つと、もう一度籠を抱えて歩きだそうとした。
『君の体格では、その籠は大きすぎる。大人に任せた方がいいのでは?』
『ううん、いいんだ。とうさんはしごとがいそがしいし、かあさんはうごけないから、おれがちゃんとしないといけないんだ』
男児はたどたどしくも、きっぱりとした声色でそう言うと、籠を持って再び歩き出した。その後ろを、青い髪の少女はついていった。
『かあさんにあかちゃんがうまれるから、おれ、もうすぐにいちゃんになるんだ。だから、しっかりしないといけないってとうさんからいわれたんだ。おれはちょうなんだから、あとからうまれてくるおとうとやいもうとを、まもらなきゃいけないから』
男児はそう言ってにっこりと笑うと、少女は不思議そうに首をひねった。