第106章 変わりゆくもの<参>
朝、自室で目を覚ました汐は、一週間前にしのぶに言われていたことを思い出していた。
(今日、私は決めなくてはならない。私がこれから、どうするか)
汐の心はもう決まっていた。例え鬼殺隊員として戦えなくても、自分を支えてくれていた人たちの役に立ちたい。
記憶が戻らなかったことは申し訳ないが、自分をここまで気に掛けてくれた人たちの為に、何かできることをしたい。
その事をしのぶに伝えようと、汐は意を決して体を起こした。
だが、汐はしのぶの部屋へ行く前に、炭治郎の顔がどうしても見たくなった。せめて、彼の事だけは思い出したかったが、もう自分に時間は残されていなかった。
汐はそっと炭治郎の眠る病室の扉を開けた。相も変わらず彼は眠り続け、一向に目を覚ます気配はない。
汐はまた炭治郎の傍に座ると、眠る彼の顔を見つめた。
(ごめんなさい。あなたの事はどうしても思い出したかった。でも、駄目だった。思い出せなかった。だからせめて、あなたの為にできることを、これからはしますから、どうか、どうか・・・)
汐は心の中でつぶやきながら、そっと炭治郎の頬に触れた。陽だまりのような温かさが、汐の少し冷たい手を温めた。
その時だった。
「う・・・・」
炭治郎の口が僅かに動き、小さく言葉を紡いだ。汐は反射的に立ち上がり、彼の顔を覗き込んだ。
その瞬間、汐の頭にこれ以上ない程の激痛が走り、そのまま彼女の意識は深い闇の中に沈んでいくのだった。