第106章 変わりゆくもの<参>
翌日。汐は善逸やカナヲと共に、機能回復訓練を受けていた。不思議なことに、記憶はなくても体が覚えているのか、汐はアオイやカナヲ相手に訓練をこなせていた。
善逸達は勿論、当の本人の汐ですら、自分の身体能力に驚きを隠せなかった。
全ての訓練を終え、汐が一息ついていると、パタパタと足音をさせながらきよが訓練場に転がり込んできた。
「訓練中にすみません。汐さん、しのぶ様がお呼びです」
「胡蝶さんが?なんだろう・・・」
きよの言葉に汐は少しばかり不安を感じたが、呼ばれている以上無下にするわけにもいかず、アオイに断りを入れてからしのぶの部屋へ向かった。
「胡蝶さん、汐です」
汐はしのぶの部屋の扉を叩くと、中から「どうぞ」というしのぶの声が聞こえた。
「失礼します」
汐はそう言って部屋に入ると、しのぶは汐に傍にあった椅子に座るように促した。
「さて、あなたをここへ呼んだのは、これからの方針を話すためです。以前にも少し話したと思いますが、今あなたは、鬼殺隊士としての記憶を失い、とても戦える状態とは言えません。そのため、このまま記憶が戻らない場合は除隊という処置をとらせていただくと」
「・・・はい」
「・・・ですが、あなたの除隊を望まない人たちから、手続きを待ってほしいと直談判を受けまして、あと一週間、待つことにしました」
その言葉に汐は目を見開き、しのぶの顔をじっと見つめた。そんな汐を見て、しのぶはさらに続けた。
「もしも記憶が戻らなかった場合、除隊はせずに鬼殺隊の補助として働くという道もあります。勿論、それ以外の道も。ですが、決めるのはあくまでもあなた自身です」
しのぶの真剣な目に、汐は唾を飲み込みながら頷いた。いずれにしても、一週間後には答えを出さなければならない。
汐は神妙な面持ちで、しのぶの部屋を後にした。
汐の除隊を一週間待ってくれたことにも驚きだったが、何よりも自分の除隊を望まないものがいる。
その事実が、汐の心を少しだけ軽くしてくれた。