第106章 変わりゆくもの<参>
「いい?あなたは意識が戻ったとはいえ、まだ本調子ではないのだから、くれぐれも無茶はしないように」
ベッドに横たわる伊之助に、アオイは真剣な表情で釘を刺した。すると伊之助は、文句も言うこともなく俯いたまま口をつぐんでいた。
「伊之助さん?」
黙り込む伊之助に、アオイは不安になって声を掛けると、伊之助はぽつりとつぶやくように言った。
「なあ、あいつが俺達の事を忘れちまってるって、本当なのか?」
詳細を善逸から聞いたのだろう。伊之助の言葉に、アオイはそれが汐の事を指していると分かると、悲し気に目を伏せた。
「なんでそうなっちまったんだ?あいつ、元に戻んのか?」
伊之助の問いに、アオイは「分からない」と言って目を伏せ、伊之助はざわつく胸を抑えるかのように、右手でぎゅっと服を握った。
「・・・今、皆が汐さんの記憶を戻すきっかけを探しているわ。そして汐さん自身も、記憶を取り戻そうと頑張ってる。だから、あたしももっとしっかりしないと」
それは伊之助にというよりも、自分に言い聞かせているようであり、そんな彼女の背中を伊之助は真剣な面持ちで見ていた。