第105章 変わりゆくもの<弐>
禰豆子は汐の姿を認識すると、表情を緩めて汐に飛びついた。
最近歌を聴かせてくれないどころか、全く会いに来ない汐に、禰豆子はしびれを切らしていた。
兄である炭治郎も未だに目覚めず、善逸も前程は来なくなってしまい、禰豆子の寂しさは募る一方だった。
そんな中、いつものように夜の散歩をしていた禰豆子は、思わぬところで汐に出会えたことで嬉しくなり、思わず飛びついた。
だが、
「ひっ、こ、来ないでっ!」
汐は怯えた表情で小さく叫ぶと、飛びついてくる禰豆子を振り払った。その勢いで禰豆子は尻餅をつき、驚いた様子で汐を見上げた。
今まで汐がこんなことをしたことはなく、今禰豆子に見せている表情も、見たことのないものだった。その現状を理解するまで、禰豆子は少しばかりの時間を要した。
そして、自分が拒絶されたと分かると、禰豆子の両目から大粒の涙があふれ出した。
(えっ!?)
いきなり泣き出した見知らぬ少女に、汐は思わず息をのんだ。もしや、この少女は自分を知っているのかもしれない。
例えそうじゃなくても、いきなりこのような態度をとられれば、誰だって悲しくなるだろうと、汐ははっとした表情で禰豆子を見つめた。
「あ、ご、ごめんなさい。いきなりの事で驚いて・・・」
だが、汐が言葉をつづける前に、禰豆子はそのままくるりと背を向けると、廊下の奥へと走り去ってしまった。
「ま、待ってください!」
汐は思わず叫ぶと、闇の中へ消えていった禰豆子を追った。
(何故だろう。あの子の涙を見た瞬間、胸がすごく苦しくなった。きっとあの子は、私を知っている。ううん、それだけじゃない。とっさのこととはいえ、酷いことをしてしまった。謝らないと・・・!)
汐は必死で走り去る禰豆子を追った。このまま彼女を見失ってはいけない気がする。
汐の中の何かが、そう告げていた。