第105章 変わりゆくもの<弐>
それからどれだけの時間が経っただろうか。
暗闇の中、汐はゆっくりを目を開けた。あたりはすでに夜の帳がおち、微かな月明かりだけが窓辺から部屋を照らしていた。
(私、ずいぶん眠っていたみたい)
汐はゆっくりと体を起こし、そっとベッドを下りた。喉が渇いていたため、備え付けの水を飲むと、ぼんやりとしていた意識が少しはっきりしてきた。
(さっきのあの人、嘴平さんって言ったっけ。あの人は私を知っていた。もしかしたら、他にも私を知っている人がいるかもしれない)
汐は窓の外を見て、月がかなり高い位置に上っていることに気が付いた。おそらく、今はかなり遅い時間なのだろう。
今病室へ行けば流石に迷惑が掛かると察した汐は、もう一度ベッドに戻り、目を閉じた。
しかし、一度目覚めてしまったせいか、なかなか寝付くことができない。仕方なく汐は身体を起こすと、そっと扉を開けて廊下へと出た。
明かりがないせいか、夜の屋敷内はとても不気味だった。辛うじて差している月の光だけが、汐の進む道をぼんやりと照らしていた。
その不気味さに汐は臆し、やっぱり部屋へ戻ろうとしたときだった。
突然、汐の後方で小さな物音がした。汐は悲鳴を上げそうになる口をとっさに抑え、反射的に振り返った。
(何?何かいるの!?)
途端に身体が冷たくなり、息は乱れ、心臓は早鐘の様に打ち鳴らされ始めた。すると、その音は段々と汐の方へ近づきつつあった。
普通の者なら、すぐに部屋に戻り籠城するのだが、何故か汐は、それよりもその音の正体が気になった。
視線を鋭くし、警戒心を最大にしながら、向かってくる者を迎え撃とうと構えた。
そしてついに、暗闇の中から音の正体が姿を現した。
「!?」
汐は目を大きく見開き、身体を強張らせた。そこにいたのは――
「お、女の子?」
緑色の竹を咥えた、桃色の瞳をした少女、禰豆子だった。