第105章 変わりゆくもの<弐>
やがて禰豆子は、開きっぱなしの扉のある一部屋へと飛び込んだ。そして、ベッドの横にある箱の中に入り込み、扉を閉めた。
汐は禰豆子が入った部屋を見つけると、そのまま同じように中へと飛び込んだ。
「どこですか?どこに、いるのですか?」
汐が辺りを見回すと、ベッドの横に大きめの箱があるのが見えた。そこから微かに音がすることから、禰豆子がそこにいることは間違いなかった。
「ごめんなさい。いきなり驚きましたよね?言い訳に聞こえてしまいますが、今、私は記憶をなくしているようで、あなたの事を思い出せないんです。あなたが私を知っていても、私はあなたを覚えていないんです」
汐は箱越しに、禰豆子に向かって声を掛けた。それを聞いていた禰豆子は、言葉の意味を理解するべく、箱の中で小さく首をひねった。
「でも、私の仲間だという方々が、私の記憶を取り戻そうとしてくれています。私自身も、皆さんの事を思い出したい。勿論、あなたの事も。だからお願い、もう一度顔をよく見せて。今度は、あんなことしないから」
汐が必死の思いで訴えると、箱の扉がゆっくりと開いた。そしてその中から、禰豆子が姿を現した。
やはり禰豆子の顔に、汐は覚えがなかった。しかし、汐はさざ波の様に心が騒ぐのを感じた。
ふと、禰豆子は徐に隣のベッドを見つめた。それにつられるように、汐も顔を動かした。
そしてそこに横わたる人物を見て、汐は大きく目を見開いた。
そこには、頭と顎に包帯を巻き、両腕を点滴の細い管に繋がれた、日輪のような耳飾りを付けた少年が眠っていた。
その顔を見た瞬間、汐の心はこれ以上ない程騒ぎ出したのだった。