第105章 変わりゆくもの<弐>
「師範!!」
カナヲが向かったのは、任務があるとき以外は何時もいる、しのぶの部屋。しのぶはカナヲが血相を変えてやってきたことに驚き、目を見開いた。
「カナヲ?そんなに慌ててどうしたの?」
しのぶがそう言うと、カナヲは戸惑った表情で視線を泳がせた。今まで彼女がこのような表情をしたことはなく、しのぶの心は少しだけ不安になった。
だが、次に彼女の口から出てきた言葉に、しのぶはさらに驚いた。
「お願いします、師範!汐の除隊を、もう少しだけ待ってください!せめてあと、あと一週間だけ猶予をください!!」
カナヲは叫ぶようにそう言うと、しのぶに向かって頭を下げた。
しのぶは今まで一度たりとも、カナヲがこのような大声を上げたのを見たことはなかった。初めて彼女を迎え、継子としてだけでなく家族として受け入れた時ですら、こんなことは起こったことはなかった。
「もしかしたら、何かのきっかけで記憶が戻るかもしれないし、きっと汐は鬼殺隊を辞めることを望んでいません。どうしてそう思ったのは、よくわからないけれど。でも、このまま汐が今まで戦ってきたことを、なかったことにはしたくないんです!」
カナヲの言葉に、しのぶは表情を固まらせたまま彼女を凝視していた。感情表現に乏しかった彼女が、こうもはっきりと自分の意見を口にし、直談判までしてくることに、驚きと共にうれしさを感じた。
だが、しのぶがそれを感じる前に、今度はアオイが焦りを顔に張り付けながら、しのぶの部屋に転がり込んできた。