第104章 変わり行くもの<壱>
それから、汐の身体は驚異的な回復力を見せ、目が覚めてから五日後には、ほぼ支えなしで歩けるようになった。
そんな汐に、時折見舞いに来ていた隠達は驚きを通り越して恐れすら抱いていた。
だが、体は回復しても汐の記憶は未だ戻らず、しのぶは苦悩の表情を浮かべながらため息をついた。
(汐さんには気の毒ですが、記憶が戻る兆候がない以上、そろそろ手続きを考えなくてはいけませんね)
勿論、これは最終手段としてできれば使いたくない手だった。しかし、今の汐はとても鬼殺隊員として戦える状態ではない。
今までもやむを得ず戦線を退いたものは、しのぶもいやというほど見てきた。元音柱、宇髄天元ですらそうだった。
(だけど、本当にこれは正しいことなの?少なくとも、私たちにとって汐さん、ワダツミの子の力は大きな戦力になる。それが失われるということは、鬼殺隊にとって大きな痛手。でも、それ以上に私は彼女には・・・)
しのぶはもやもやとする胸の中を抑えるかのように、ぎゅっと隊服を掴んだ。今までに感じたことのない感情に、戸惑いすら見せていた。
(姉さん。私、どうすればいいの?何が彼女にとって正しいことなの?)
そんなことを考えていたしのぶだったが、ふいに扉を叩く音がしてはっと顔を上げた。
「どちら様?」
しのぶがそう声を掛けると、扉の向こうから聞こえるくぐもった声に、彼女は目を見開くのだった。