第104章 変わり行くもの<壱>
鬼を退治する組織、鬼殺隊。柱、蝶屋敷。どれもが汐には覚えがなく、そして自分自身もここに属していたという話を聞いても、全く思い出すことはできなかった。
あまりに多くの情報を与えられると、脳の許容範囲を超えてしまい体調を崩してしまうので、その日はそれ以上の事はできなかった。
次の日。汐は運ばれてきた流動食を口にしながら、窓の外を見ていた。鳥はさえずり、温かな陽の光が汐の部屋を柔らかく照らす。
その美しい世界ですら、今の汐には覚えがなかった。
しかしそれでも、汐はアオイや、同期と言われたカナヲと少しずつ話をしながら、自分の置かれている状況を少し実把握していった。
この世には鬼という、人を喰う化け物が存在しており、自分は鬼殺隊という組織に属し、仲間と共に鬼を倒していた。そして大きな戦いで負傷し、この場所へ運び込まれて二か月近く意識が戻らなかったという。
(私が鬼を倒す力を持っていたなんて、とても信じられない)
それを聞いて、汐の身体は震えた。自分がそのような事を成し遂げていたことが、とても信じられなかった。
だが、周りの者たちの反応を見る限り、それは嘘ではないようだった。
(でももしそれが本当だとしたら、少なくとも私は誰かの役に立てていたってことなんだ。そうだったら、凄く嬉しいな)
自分が誰かの助けになることができた。そう思うだけで、汐の心は少しだけ軽くなるのだった。