第104章 変わり行くもの<壱>
「検査の結果、言葉の意味や物の使い方は覚えていますから、汐さんが失っているのは自分を含め、周りの情報の殆どの記憶の様です。つまり、彼女が鬼殺隊員として鬼を滅する仕事をしていた、ということも、今は覚えていないということになります。それが一時的なものなのか、そうでないのかは今はわかりかねますが――」
しのぶの話を、甘露寺鼻を啜りながら聞いていたが、次の彼女の言葉に衝撃を受けた。
「もしもこのまま汐さんの記憶が戻らなければ、彼女には鬼殺隊を辞めてもらうことになるでしょう」
しのぶの言葉に甘露寺は勿論、善逸達も目を見開いた。甘露寺は何かを言いかけたが、汐の顔を見てその口を閉ざした。
汐の悲しい過去の事は、大筋だが知っていた。今の汐はその過去を忘れている。もしもこのまま彼女が忌まわしい過去を忘れたまま、新しい人生を生きていくことも、決して悪いことではないのかもしれない。甘露寺はそう思った。
一方、それを聞いたカナヲは、驚いた表情で汐を見つめた。光の無い目でどこかを見つめる汐に、かつて自分に何度も挑んできた面影は微塵もなかった。
結局その後はまとまった話もできず、甘露寺は腑に落ちないまま任務へ向かった。そして汐は、アオイたちから自分がいる場所は蝶屋敷と言い、鬼殺隊最高位である柱の一人、蟲柱・胡蝶しのぶが構える屋敷であると教えられた。