第104章 変わり行くもの<壱>
「・・・では、次の質問です。今は何時代ですか?」
しのぶの問いかけに汐はすぐに「大正時代です」と答えた。
「はい、結構です。では次に、ここにある絵の中から生き物を選んでください」
しのぶに手渡された絵には、兎、筆、車、鳥、本、時計、犬、猫、傘が描いてあり、汐は迷いなく兎、鳥、犬、猫の絵を指さした。
「はい、わかりました。ありがとうございます」
しのぶはそう言って診療録に何かを書きこむと、心配そうな顔で並んでいる善逸達を見つめた。
「これで検査は終了です。その結果――」
しのぶが検査結果を告げようとしたその時だった。
「いやあああああ!!!」
耳をつんざくような声が聞こえ、善逸は思わず耳を塞いだ。そして間髪入れずに、扉を突き破る勢いで緑と桃色の塊が、転がるように入ってきた。
「聞いたわよしのぶちゃん!!しおちゃんが記憶喪失だなんて、わ、私は信じないわっ!嘘よね、嘘だって言って!こんなの、こんなの、あァァんまりよォォーーッ!!」
甘露寺は部屋に入るなり、泣きじゃくりながら汐に縋りついた。突然の闖入者に、汐はどうしたらいいかわからず、困惑した表情で言った。
「あの、すみません。この破廉恥な格好の人を何とかしてくれませんか?」
そう言う汐に甘露寺は「しおちゃんだわ!この歯に物を着せない言い方はしおちゃんに間違いないわ!」と叫んだ。
「甘露寺さん。お気持ちは痛いほどわかりますが、ここは病室ですよ」
見かねたしのぶが冷静に諭すと、甘露寺は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を向けると、手渡された手ぬぐいで顔を拭いた。