第104章 変わり行くもの<壱>
時間は少しだけさかのぼり。
機能回復訓練を終えた善逸は、流れ出る汗を拭きながら廊下を歩いていた。
彼は、ここに運び込まれて次の日に目を覚ましたものの、両足が折れていたため治るまでにかなりの時間を要した。
やがてその足も治り、元通りに動かすための訓練を行っていた。
相も変わらず訓練は厳しかったが、この屋敷の女性たちが自分の為に(というには些か語弊があるが)訓練に付き合ってくれたため、それを糧にして彼は耐えていた。
だが、そんな善逸にも気になることはあった。それは、未だに目を覚まさない三人の仲間たちの事だった。
善逸はあの時唯一、鬼の猛毒を受けなかったこともあり一番に目を覚ました。しかし、他の三人はそうもいかず、特に伊之助は毒による呼吸の止血が遅れ、汐に至っては二回も心停止を起こしたということだった。
あの三人が死ぬわけがないと思いつつも、もしものことが起こったらどうしようという相反する感情が、善逸の胸を締め付けていた。
そんな時だった。
「「「えええええええーーーーーっ!!!???」」」」
何処からか耳をつんざくような叫び声が聞こえ、善逸は思わず耳を塞いだ。だが、それがアオイたちの声であると気づいた彼は、すぐさまその場所へと足を進めた。
「ど、どうしたの!?今のすごい声・・・」
善逸がドアを開けて中を覗くと、そこには目を覚ましている汐と、青ざめた顔のアオイたちが立っていた。
「汐ちゃん!よかった、気が付いたんだねぇ!!」
汐の姿を見た善逸は、嬉しさのあまり目頭が熱くなるが、ふと奇妙なことに気づいた。
アオイたちの"音"が、どうも喜んでいるそれではなく、目の前の汐も、いつもの"音"でなくなっていた。
「あれ?何、この音。それに君、汐ちゃん・・・だよね?」
善逸が震える声で尋ねると、汐は首をかしげながら善逸をまじまじと見て言った。
「どちら様でしょうか?」
その言葉を聞いて、善逸の思考は一瞬止まり、そして
「えええええええーーーーーっ!!!???」
アオイたちと同様に大声を上げるのだった。