第103章 決着<肆>
『そうだ。この際だからこの子を呼ぶ名前を決めてしまわない?』
『名前?』
『うん。この子が本当の名前を思い出すまでの、仮の名前。いつまでもあんたとか呼ぶのも忍びないでしょう?』
すやこの提案に炭吉は、それはいいと言わんばかりに顔を輝かせた。
『でも、いきなり名前を付けようといっても、どんな名前にするんだ?』
『そうねぇ。やっぱり一目でその子だってわかる名前がいいわねぇ』
二人は少女を見ながら首をひねり、少女はぽかんとした表情のまま二人を見つめていた。
『やっぱり青い髪が綺麗だから、それにあやかった名前がいいんじゃないか。あおい、あやめ、りんどう、う~ん・・・』
炭吉は腕を組みながら、青を連想させる言葉を次々に口にするが、どれも決定打にはならず表情を曇らせた。
『意外と難しいものだな。君は、何か希望はあるかい?』
炭吉が尋ねると、少女は首を横に振り、『お二方が考えてくださるならなんでも』と答えた。
ますます困惑する炭吉だが、すやこはふと、何かを思いついたように声を上げた。
『そうだ。"うみ"というのはどう?』
『うみ?』
『うん。私は見たことがないのだけれど、国の外には真っ青な海が広がっているっていうでしょ?この子の髪の色は、その海の色ときっと似ているんじゃないかって』
見たことが無いのに何故そう言い切れるのか、炭吉は少し呆れた表情ですやこを見た。だが、"うみ"という名前は響きも悪くないし、何より少女がその名前の候補を聞いた瞬間、僅かに反応したのを炭吉は見逃さなかった。
『気に入ったみたいだね。これからは君の事を"うみ"と呼んでもいいかな?』
『はい、構いません。お二方が私に下さった、大切な名前ですから』
少女、"うみ"の言葉に、炭吉とすやこは満足げな笑みを浮かべるのだった。