第103章 決着<肆>
この少女が彼等と出会ったのは、今から数週間ほど前。
川に洗濯に行こうとしていたすやこが、家から少し離れた場所に倒れている少女を見つけ、慌てて夫を呼び連れて帰った。
彼女はあちこちに傷跡があり、栄養失調で死ぬ寸前だった。しかし、二人の献身的な看病の結果、今はこうして彼らと共にこの場所で暮らしていた。
だが、少女は名前を含めすべての記憶を失っていた。身分が分かるものも何もなく、体は回復したものの記憶は何一つ戻っていなかった。
『申し訳ありません』
『どうして謝るのぉ?あんたは何も悪くないじゃない』
哀し気な目で謝る少女に、すやこは首を横に振って言った。
『例え記憶が戻っても戻らなくても、今こうしてここにいるあんたは、私たちの家族よ。だから、あんたは何も気にしなくていいの』
『すやこの言う通りだ。だから顔を上げて。そんな顔をしていたら、俺達も悲しくなる』
二人の言葉に少女は、胸の奥から湧き上がってくる温かいものを感じ、悲しみとは異なる涙が青い瞳からあふれ出した。
そんな彼女の背中を、二人は優しくなでた。