第103章 決着<肆>
パタンという音と共に、ツンと鼻につく消毒液の匂い。そんな空気に包まれながら、汐はゆっくりと目を開けた。
ぼやけた視界の中に、見慣れない天井がゆっくりと映る。
汐は、ニ三度瞬きをしながら大きく目を開くと、そこは医療器具があちこちに置かれた小さな部屋だった。うまく働かない頭で顔を動かすと、視界の隅で何かが動く気配がした。
「汐さん!」
それはパタパタと足音を立てると、部屋を飛び出し汐が目を覚ましたことを誰かに告げていた。
すると間髪入れずに部屋の中に別の者がなだれ込むようにして入ってきた。
「よかった、気が付いたんですね!」
汐の前には、三人娘とアオイが涙目になりながら立っており、嬉しさのあまりか泣き喚いた。
「ここ・・・は?」
汐が尋ねると、なほは泣きながら「ここは蝶屋敷ですよ」と答えた。
「汐さん、吉原の戦いの後二か月近くも意識が戻らなかったんですよ!しかも、眠っている間に二回も心臓が止まって、それで、それで・・・!」
アオイは我慢ができなくなったのか、汐の布団に突っ伏して泣き出し、きよとすみも、なほに抱き着きながらまた泣き出した。
そんな彼女たちを見て、汐は困ったような顔をして口を開いた。
「あの・・・。つかぬことをお聞きしますが・・・」
「はい。・・・え?」
いつもの口調じゃない汐に違和感を覚えた彼女たちは、弾かれた様に顔を上げた。だが、次に汐が口にした言葉に、皆は絶句した。
「あなた方はいったい誰なのですか?そして私は、誰なんでしょうか?」
汐の透き通るような声が四人の耳を通り抜け、あたりにしばしの沈黙をもたらした。
そして、数拍置いた後。
「「「「えええええええーーーーーっ!!!???」」」」
耳をつんざくような四人の声が、屋敷中に響き渡った。