第13章 二つの刃<参>
「ね・・・ね・・・ず・・・こ?」
炭治郎の口がゆっくりと動き、体が震えだす。固まったまま動かない彼の背中を、汐は思い切り叩いた。
悲鳴を上げて顔をこわばらせる炭治郎に、汐は朗らかに笑って言い放つ。
「ほら、何ぼーっとしてんのよ。早くいけバカタレ」
炭治郎はそのまま禰豆子のなを呼びながら掛けていく。途中で足がもつれて転んでしまったが、そんな彼に禰豆子は駆け寄りその体を抱きしめた。
炭治郎の目から大粒の涙があふれだし、禰豆子をぎゅっと抱き返す。声を上げて泣く彼を見て、汐の目にも涙が浮かんだ。
(よかったね、炭治郎。本当に、よかった・・・)
なんとなく近寄りがたい雰囲気だったため、汐はその光景を少し離れた場所で見ていた。すると、禰豆子がこちらの気配に気づいたのか汐のほうに顔を向けた。
初めて視線がぶつかり、汐の体がわずかに強張った。やはり彼女の眼は、人間のもとは異なっていた。
禰豆子の薄桃色の瞳が、汐を静かに映す。まるで探るような視線に汐の体が小さく震えたが、そのまま彼女は笑顔を浮かべた。
「初めまして、禰豆子。あたしの名前は汐。大海原汐っていうの。あんたの兄さんの、その・・・友達よ」
禰豆子はそのままゆっくりと汐に近づく。後ろから炭治郎が禰豆子を呼ぶが、禰豆子は構わず汐のそばに寄った。
(大丈夫、大丈夫。この子は違う。この子は、禰豆子は、ほかの鬼とは違う。だって、こんなにも・・・)
禰豆子はしばらく汐の顔を見ていたが、やがてその両手を静かに伸ばし
――汐の両頬を包むようにそっと触れた。