第102章 決着<参>
そんなことを考えていた妓夫太郎は、ふと目を見開いた。周りは真っ暗で、一寸先すら見えない。
(なんだあ、ここは。地獄、か?)
まあ自分のしたことを考えれば当然だな、と、自嘲気味に笑う彼の背中から、甲高い懐かしい声が響いた。
「お兄ちゃああん!!」
振り返ればそこには、一人の少女が立っていた。齢十三ほどの、美しい少女だった。
「お前、梅、か?」
妓夫太郎がそう尋ねると、少女はそれには答えずに彼に縋りつきながら叫んだ。
「嫌だ、ここ嫌い。どこなの?出たいよ、何とかして!」
「お前、その姿・・・」
妓夫太郎は言葉を紡ごうとしたが、それをグッと飲み込むと梅に背を向け歩き出した。梅はそっちが出口なのかと尋ねると、妓夫太郎はついてくるなと冷たく突き放した。
「なんで?待ってよ、アタシ・・・」
「ついて来んじゃねえ!!」
妓夫太郎が怒鳴りつけると、梅はびくりと体を大きく震わせた。そんな彼女をそのままに、妓夫太郎はそのまま歩きだした。
「さっきの事怒ったの?謝るから許してよ!」
歩きだす兄の背中に、梅は涙を目にいっぱいに溜めながら、唇を震わせて叫んだ。
「お兄ちゃんの事醜いなんて思ってないよォ!!悔しかったの、負けて悔しかったの。アタシのせいで負けたって認めたくなかったの。ごめんなさい、うまく立ち回れなくって。アタシがもっとちゃんと役に立ってたら負けなかったのに。いつも足引っ張ってごめんなさい」
泣きながら謝罪の言葉を口にする梅に、妓夫太郎は一度だけ足を止めた。だがそれでも彼は、梅を突き放すように冷たく言った。
「お前とはもう兄妹でも何でもない。俺はこっちに行くから、お前は反対の方、明るい方へ行け」
それだけを言うと妓夫太郎は再び、闇の中へ向かって足を進めた。そんな彼に、梅は唇をかみしめると、そのまま背中に飛び乗った。
「おい!!」
「嫌だ、嫌だ!!離れない、絶対に離れないから!!」
梅は妓夫太郎の背中に全身の力を込めてしがみつきながら、涙を飛び散らせて叫んだ。