第102章 決着<参>
「どうしたどうした、可哀想に」
彼が顔を上げれば、そこには頭から血をかぶったような模様の服装に、白橡の色をした頭髪。その目には上弦・陸と刻まれていた男だった。
しかしその男の口には血がべっとりとこびりつき、その両腕には屍となった女が抱えられていた。
一目で、男が人間ではないということが分かった。
「俺は優しいから放っておけないぜ。その娘、間もなく死ぬだろう」
男は一瞬だけ目をぎゅっと細めると、穏やかな声色で言葉を紡いだ。
「お前らに血をやるよ、二人共だ。"あの方"に選ばれれば、鬼となれる。命というものは尊いものだ。大事にしなければ」
男は二人に血を注ぐと、ぞっとするような笑みを浮かべながら言い放った。
「さあ、お前等は鬼となり俺の様に十二鬼月・・・、上弦へと上がってこれるかな?」
こうしてのちに上弦の陸となる鬼、妓夫太郎と堕姫が生まれたのだった。
(鬼になったことに後悔はねえ。俺は何度生まれ変わっても必ず鬼になる。幸せそうな他人を許さない。必ず奪って取り立てる、妓夫太郎になる)
だが、そんな彼でも気がかりなことが一つだけあった。
それは、最愛の妹梅の事。もしも、もっといい店にいたらまっとうな花魁に。普通の親元に生まれていたら普通の娘に。良家に生まれていたら上品な娘になっていたのではないかと。
(染まりやすい素直な性格のお前だ。俺が育てたためにお前はこうなっただけで、奪われる前に奪え、取り立てろと俺が教えたから、お前は客の目玉を突いた。けど、従順にしていれば何か違う道があったのかもしれない)
――俺の唯一の心残りは、お前だったなあ、梅。