第102章 決着<参>
妹をこのような目に遭わせ、身勝手な理由で自分の命も狙う。そんな二人に彼の怒りと殺意はどんどん膨らみ、そして。
彼は落ちていた鎌を掴むと、驚くべき速さと跳躍で女将の喉笛にその刃を突き立てた。
「お前、いい着物だなあ」
驚愕を張り付け振り返る侍に、彼は地を這うような声で語り掛けた。
「清潔で肌艶もいい。たらふく飯を食って、綺麗な布団で寝てんだなあ。生まれた時からそうなんだろう。雨風凌げる家で暮らして、いいなあ、いいなああああ!!」
彼の口から零れるのは、呪いに満ちた嫉妬の声。侍は恐ろしさに一瞬だけたじろいだものの、刀を握りなおすと再び斬りかかった。
だが、
「そんな奴が目玉一個失くしたくらいで、ギャアギャアピーピーと、騒ぐんじゃねえ」
侍が刀を振り下ろすよりも早く、彼の鎌は男の顔を真っ二つに斬り裂いていた。
動かなくなった男をしり目に、彼は丸焦げになった梅を抱きかかえながら歩き出した。しかし、元々筋肉があまりつかない彼の力では、人一人を抱えて歩くことなどできず、すぐに倒れてしまった。
空気は冷え、いつの間にか空からは雪がちらつき、動かない二人を白く染めていった。
(誰も助けてくれない。いつもの事だ。いつも通りの俺達の日常。いつだって助けてくれる人間は、いなかった。どうしてだ?"禍福は糾える縄の如し"だろ。いいことも悪いこともかわるがわる来いよ・・・)
彼は理不尽な世の中を心の底から恨んだ。縒り合された縄の様に、幸福も不幸も同じだけやってくる。しかし実際はそうではなく、幸せな奴はずっと幸せなままで、不幸な奴はずっと不幸なまま。少なくとも彼らにとって、幸せだと思ったことなどなかった。
雪は容赦なく二人に降り積もり、体力と気力を容赦なく奪っていく。このままここで朽ちるのか。そう嘆いていた彼の耳に、場違いな声が届いた。