第102章 決着<参>
彼、のちに妓夫太郎と名乗る少年と梅という少女が生まれたのは、羅生門河岸という遊郭の最下層。
そこでは子供は生きているだけで飯代がかかる、迷惑千万な存在だった。
彼も当然例外ではなく、生まれる前に何度も殺されそうになり、生まれてからも何度も殺されそうになった。
しかし彼はそれでも生き延びた。枯れ枝のような弱い体だったが、それでも彼は生きた。生きたかったからだ。
(虫けら、ボンクラ、のろまの腑抜けで役立たず。ありとあらゆる暴言を吐かれ、醜い声や容貌を罵られ、汚いと言って石を投げられた)
――この世にある罵詈雑言は、すべて俺のために作られたようだった。
汚れきり悪臭を放つ彼は、遊郭では蛇蝎の如く忌み嫌われ、それでも彼は虫や鼠を喰い生き延びた。玩具の代わりの遊び道具は、客が忘れていった鎌だった。
そんな彼だが、妹の梅が生まれたことで何かが変わり始めていった。
梅は美しかった。年端もいかない頃から大人がたじろぐほど、綺麗な顔をしていた。そんな妹のことを、彼は誇らしく思っていた。
(その後、俺は自分が喧嘩に強いと気づいて、取り立ての仕事を始めた。誰もが俺を気味悪がって恐れた。気分がよかった。自分の醜さが誇らしくなり、梅のような美しい妹がいることは、俺の劣等感を吹き飛ばしてくれた。これから俺たちの人生は、よい方へ加速して回っていくような気がした)
しかし、それは梅が十三になるまでの事だった。