第13章 二つの刃<参>
その時、
「ふざけんじゃねえ!!」
突如怒声が響き、鴉の切羽詰まった鳴き声が響く。何事かと思い振り返ると、先ほどの少年が鴉を乱暴に振り払い銀髪の少女に詰め寄る。
そして少女の顔を殴りつけ、髪を乱暴につかんだ。
「どうでもいいんだよ!鴉なんて!刀だよ刀!今すぐ刀をよこせ!鬼殺隊の刀、【色変わりの刀】!!」
(ちょっ、アイツ何やってんの!?)
汐が驚いている間に炭治郎がすぐさま駆け寄り、髪をつかんだままの少年の腕を乱暴につかんだ。
「この子から手を離せ!放さないなら折る!」
「ああ?なんだテメェは?やってみろよ!」
少年は炭治郎に視線を向けると、乱暴に言い放った。
炭治郎は何も言わず、小さく息を吸う。その後、炭治郎がつかんでいた腕からミシリという嫌な音が聞こえた。
「ぐっ……!?」
少年は小さくうめいて少女から手を放す。腕を抑えている様子から、炭治郎は本当に腕を折ったようだ。
「大丈夫!?」
汐は直ぐに少女に駆け寄り、傷の具合を見る。殴られたときに口を切ったらしく血がこぼれている。汐は残っていた綺麗な布で少女の口元をぬぐった。
少女は呆然と汐を見ていたが、布を当てる手を静かに抑え「御心配には及びません」と、小さく答えた。
「お話は済みましたか?」
黒髪の少女が淡々と問いかける。まるで先ほどの出来事などなかったかのような振る舞いに、汐は違和感を覚えた。
黒髪の少女は用意してあった台にかけられていた紫の布を取る。そこにはさまざまな大きさ、色、形の石のようなものが並べられている。
「ではあちらから、刀を作る玉鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです」
汐は他の者と同じく台の前に立ち、ずらりと並ぶ玉鋼を見つめた。
正直、どのようにして選べばいいのかわからない。玉鋼自体を彼女は初めて見るし、その基準など全くわからない。
汐の隣にいた先ほどの少年も、困惑したように呟き、炭治郎も眼に迷いを浮かべている。
ただ、汐は先ほどから妙な感覚を覚えていた。玉鋼のほうから何かが聞こえる。
それは音のようでも声のようでもあり、一番近い言葉を選ぶなら【歌】のようなものが聞こえた。
(もしかして、あたしを呼んでいるの?)そんな感覚さえ、汐は感じた。
汐が動くと同時に、炭治郎も動く。二人は並んだまま、おのれが感じた玉鋼に手を伸ばした。