第99章 役者は揃った<肆>
「何よその生意気な目。幸運だった?アタシ達が?ふざけるんじゃないわよ!柱は毒で、糞猪はお兄ちゃんが心臓を刺したし、黄色い不細工も瓦礫に潰されたわ。あいつだってお兄ちゃんが心を折ったし、アンタだって身動きすら取れないじゃない!!」
堕姫が声を荒げると、汐はふんと鼻を鳴らし、首を傾けて下から睨みつけた。
それは花魁に扮してた自分がよくやっていた、気に入らないことがあると無意識にする癖に酷似していた。
「成程、その目はやっぱりただのお飾りだったようね。あんた、人間に紛れて生きてきたくせに、一体今迄人間の何を見ていたの?」
――あんた達はわかっていない。鬼殺隊(にんげん)を。竈門炭治郎という男を。
汐がそう言った瞬間。どこかで妓夫太郎の小さくうめく声がした。堕姫は肩を震わせ慌てて視線を向けると、そこには妓夫太郎に渾身の力で額を打ち付けている炭治郎の姿があった。
よろめく妓夫太郎に、堕姫はすぐに立つように叫んだ。しかし妓夫太郎は立つことができず、その場に崩れ落ちた。
よく見れば妓夫太郎の足には一本のクナイが刺さっており、それは炭治郎が雛鶴を守った時。彼女からこっそり手渡されていたものだった。
毒が回り倒れ伏す妓夫太郎の頸に、炭治郎は刃を振りかぶって叩きつけた。