第99章 役者は揃った<肆>
「ちょっと嘘でしょ!!そんな奴に頸斬られないでよ!!」
堕姫が妓夫太郎を救出しようと帯を伸ばしたその瞬間。雷鳴のような轟音がほとばしり、黄色い閃光が帯を穿った。
顔を向ければ全身から血を流した善逸が、舞う瓦礫と共に堕姫の前に姿を現した。
(こいつ、あの瓦礫の中から抜けやがった!!)
善逸の一撃が汐を捕らえていた帯を斬り裂き、汐はそのまま飛び出すと堕姫の目に向かって何かを投げつけた。
「ギャアアア!!」
それは堕姫の目に突き刺さると、想像を絶するような痛みを彼女に与えた。それは、炭治郎と雛鶴が使ったのと同じクナイであり、汐も落ちていたクナイをこっそり拾い隠していたのだった。
「なんで、なんで、なんでよ!!なんでこんなになっているのに諦めないの!?弱いくせに、人間のくせに、不細工なくせに!これだけ痛めつけられているのに、なんでアンタの心は折れないのよッ!!」
堕姫は突き刺さったクナイを抜きながら、汐がいる方向にまくし立てた。汐はそのまま屋根の上に飛び移ると、今度は彼女が堕姫を見下ろしながら言った。
「なんでって、そんなもん――」
――大事な奴に、惚れた男に、幸せに生きて欲しいからに決まってんだろうが!!!!
そのまま汐は屋根から飛び降り、妓夫太郎の頸を捕らえた炭治郎の刀の上から、全身の体重をかけて思い切り踏みつけた。