第99章 役者は揃った<肆>
「このままアンタの身体をバラバラにするのは簡単よ。でもそれだけじゃあアタシの気が収まらない。お兄ちゃんがあいつの止めを刺した後、アンタをアタシの気が済むまで嬲ってから殺してあげる」
堕姫は身体の半分が帯に取り込まれた汐に向かって捲し立てた。すると、
「きひっ、きひっ・・・」
「ん?」
汐の口から笑い声が漏れたかと思うと、汐は突然全身を大きく震わせながら笑い出した。
「くひひっ、ひひっ、きききっ・・・けけけけけっ・・・・ヒャハハハハハ!!」
全身を痙攣させながら奇妙な笑い声を発する汐に、堕姫は苦虫を嚙み潰したような顔をむけ、その光景を堕姫の目を通してみていた妓夫太郎は、汐が遂に壊れたと認識した。
「な、なに笑ってんのよ。アンタ、やっぱり頭がおかしいわ」
堕姫は気持ち悪いものを見るような目で汐を見つめると、汐は一通り笑った後顔を伏せながら言った。
「ありがとう」
「はあ?」
「ぐちゃぐちゃだった頭から血が抜けて、少しだけ落ち着いたみたい」
堕姫は、汐の言っている意味が分からないと言った様子で首を傾げた。
「運がよかっただけ、ねえ。うん、確かにそうだわ。運がよかったのよ。ただ、それがあたし達だけに当てはまるとは限らないけれどね」
「どういう事?アンタの言っていること、全然わかんないわ」
「でしょうね。アンタはあたしが思っていた以上に脳味噌が足りなかった。あんた達が今まで生きてこられたのは、好き勝手出来ていたのは、幸運だったから。あんた達を殺せる鬼狩りに出遭わなかった。ただ、それだけだったことよ」
汐はそう言って顔を上げて堕姫を睨んだ。その目には怯えも絶望も一切ない、曇りのない刃のような決意と確信が宿っていた。