第99章 役者は揃った<肆>
どれくらいの時間が経ったのだろうか。頭に走った衝撃で、汐の意識は闇の中から覚醒した。
重い目蓋を空ければ、そこには自分を見下ろす堕姫の姿があった。
すぐさま動こうとするも、全身に鉛を着けられたように身体が重く、殆ど動かせない状態だった。
「あら、アンタまだ生きてたの?ゴキブリの生命力って凄いのね」
堕姫は思い切り嘲るように言うと、倒れ伏す汐に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「ねえ、今どんな気持ち?あれだけ大見得切ったくせに、アンタの仲間は全員死んだわよ。あ、あの目だけが綺麗な不細工は、かろうじて生きているみたいね。まあアンタももうじき死ぬだろうし、ここでみじめに苦しんで死ぬのを特別に見届けてあげる」
堕姫はそう言って汐の頭に足を乗せると、そのままじわじわと力を込めて踏みつけた。地面に触れた汐の顎が擦り切れ、血がジワリとしみだしてきた。
その痛みと屈辱感に、汐は唇をかみしめながら必死で耐えた。そんな彼女の姿を見て、堕姫は身体を震わせながら大きく笑いだした。
「アハハハハハ!!いい気味ね糞女。アンタが今の今まで生きてこれたのは、ただ運がよかったから。アンタみたいな塵屑が鼻を垂らしてのうのうと生きてこれたのは、アタシ達に出遭わなかった、ただそれだけなのよ」
堕姫はそう言って汐の髪を掴んで引き倒し、その腹を思い切り踏みつけた。汐の身体が跳ね、口から血が弾けるように飛び出した。
咳き込みか細い息をする汐に、堕姫は帯を伸ばしその中に汐の身体を取り込み始めた。
汐の身体は抵抗することもなく、帯の中にゆっくりとうずまっていく。