第98章 役者は揃った<参>
一方、妓夫太郎と対峙する汐は、ウタカタを使う隙もなく苦戦していた。特に血の斬撃は、予備動作もなしに放たれるため、回避が非常に困難だった。
「くそがっ・・・地味にしぶてえ奴だ」
中々決定打を与えられない上に、毒の浸食で身体の動きが鈍くなってきた宇髄に、妓夫太郎はニタニタと笑いながら鎌を振るった。
「ひひひっ、もうほとんど動けねえんじゃねえかあ?良い様だなあ、色男さんよお」
妓夫太郎の嘲るような声に、宇髄は一瞬だけ目を細めたがそのまま再び刀を振るった。だが、毒が回って来たせいか足元がふらつき、その一撃は空を切る。
(しまっ・・・!!)
宇髄の顔が青ざめるがもう遅く、妓夫太郎の鎌が宇髄の脳天に突き立てられようとした、その時だった。
「うおおおおおおおおお!!!」
獣のような咆哮と共に汐が飛び出し、宇髄の背中を踏みつけ跳躍すると大きく息を吸った。
壱ノ型――
――潮飛沫!!!
汐の紺青色の刃が煌めき、妓夫太郎の頸を掠めるが、妓夫太郎が再び血の刃を放とうとしたとき、汐はもう一度息を大きく吸った。
伍ノ旋律――
――爆砕歌!!!
放たれた衝撃波が斬撃ごと妓夫太郎を吹き飛ばし、瓦礫の中へと叩き込んだ。至近距離で爆砕歌を撃った反動で、汐と宇髄の身体も後方へ吹き飛んだ。
「テメッ、テメエコラ!!柱である俺を踏み台にするとは、いい度胸だなあ癇癪娘!!」
宇髄は身体を起こしながら汐に悪態をつくが、既にその顔には血の気がなく、殆ど気力で動いている状態だった。
そんな宇髄を汐は押しのけ、妓夫太郎が飛ばされた方向を見据えながら言った。
「派手男、ううん、宇髄さん。呼吸で少しでも毒の巡りを遅らせて。あいつはあたしが隙を作るから、確実にあいつの頸を斬って」
汐は滴り落ちる汗を乱暴にぬぐいながら、鉢巻きを締め直して言った。
「舌回す余裕があるなら、アイツのスカした面に一発でも叩き込んでやりなさいよ!!毒回ってるくらいの足かせがちょうどいいんでしょ?それとも何?あの時大見得切ったのはただの虚勢だったの?」
そう言う汐だが、彼女自身も限界に近いのか身体のあちこちが震えていた。しかしそれでも、決して鬼に屈することなく前を見据える決意に満ちたその姿に、宇髄は金剛石のような魂の輝きを見た。