第98章 役者は揃った<参>
妓夫太郎は一瞬だけ迷いを見せたが、攻撃対象を汐から炭治郎に切り替えた。汐の歌が聞こえる前に、炭治郎と雛鶴を始末する。ただそれだけを考えて鎌を振り上げた。
炭治郎は雛鶴を庇いながらその一撃をよけ、二撃目を振り払ったその時だった。
「竈門炭治郎、お前に感謝する!!!」
宇髄の刀が、背後から妓夫太郎の頸に向かって振りぬかれようとしていた。
一方、その様子を伊之助は遠目で認識し、毛皮越しに顔に焦燥を浮かべていた。
「だああクソ!!向こうは頸切りそうだぜ!!」
妓夫太郎と堕姫を倒すには、二人の頸を同時に斬らなくてはならない。だが、堕姫の頸はまだつながっており、このままでは撃破することは叶わない。
焦る伊之助だが、堕姫の帯は容赦なく彼に襲い掛かった。
「チクショオ!合わせて斬らなきゃ倒せねぇのによ!!」
堕姫の帯は広範囲に蠢き、柔軟性に優れた伊之助ですら間合いに入ることすらできないでいた。しかも妓夫太郎の支援があるせいか、彼女自身も縦横無尽に動き回り、全く隙を見いだせなかった。
「伊之助落ち着け!!」
そんな伊之助に、鼻提灯を出しながら戦う善逸の鋭い声が飛んだ。
「全く同時に頸を斬る必要はないんだ。二人の鬼の頸が繋がってない状態にすればいい。向こうが頸を斬った後でも、諦めず攻撃に行こう!」
鬼を目の前にすれば、泣きわめいて駄々をこねるいつもの善逸とは全く違う姿に、伊之助は一瞬だけ固まった。
「お前っ・・・おま・・・お前、なんかすごいいい感じじゃねーか!どうした!?」
腹でも壊したんじゃねえか?と言いたくなったが、そんなことを言っている場合じゃないと気づいた伊之助は、堕姫へ向かって足を進めた。