第98章 役者は揃った<参>
妓夫太郎の攻撃対象が雛鶴から汐に移ったその時、伸ばされた手が水のような斬撃により吹き飛ばされた。再び視線を動かせば、雛鶴がいた場所には丹次郎の姿があった。
かなり無理をしたのだろう。彼の口からはか細い息のような呼吸音と、咳き込む音が零れ落ちていた。
思わぬ炭治郎の動きに、妓夫太郎は目を細めた。堕姫に背中を斬られ、先ほどの戦いでも激しく消耗しているはずなのにこれほど動けることに驚いたのだ。
(できた・・・できた!!)
炭治郎はせき込みながらも、何とか雛鶴を守り抜いたことに安堵した。
(呼吸を混ぜるんだ。水の呼吸とヒノカミ神楽と合わせて使う。そうすれば、水の呼吸のみよりも攻撃力は上がり、ヒノカミ神楽よりも長く動ける。今まで鬼達と戦ってきた剣士達は皆そうしてきたはず。自分に合わせた呼吸と剣技に、最も自分の力が発揮できる形に変化させ考え抜いたから、呼吸は分かれて増えていったんだ)
水の呼吸、雷の呼吸、獣の呼吸、蟲の呼吸、炎の呼吸、音の呼吸、海の呼吸。
炭治郎が今まで見てきたどの呼吸も、使い手によくなじみ彼らが最も力を発揮できるものだった。
自分は水の呼吸に身体が適していないため、義勇のように極めることはできなくても、鱗滝が教えてくれたことを無駄にはしないと固く誓った。