第12章 二つの刃<弐>
(くそう、ちょこまかと動きやがって・・・)
なかなか攻撃が当たらない汐に、鬼はいらいらと頭を振った。だが、こいつは一つ思い違いをしていると鬼は考えた。
(俺の腕が地上に出ているものだけだと思っているな。それは大間違いだ)
鬼の別の腕が、地面を進み汐の背後に迫っていた。それを匂いで探知した炭治郎は思わず叫ぶ。
「汐、後ろだ!!」
汐ははっとした表情をしたあと、すぐに振り返り腕をよける。だが、よけきれなかったのかその一本が顔をかすめ面を吹き飛ばす。
面はそのままどこかへと飛んで行ってしまった。そしてこのせいで炭治郎の居場所が鬼にばれてしまった。
(何やってんのよアイツ!これじゃあ隙をつけないじゃない!)
鬼は二人の作戦の意図を知り、にやりと笑った。
(なるほど、二手に分かれて俺の頸を斬ろうとしていたのか。だが残念だったな。まずは怪我をしている小僧からだ!!)
鬼が腕を炭治郎のほうへ伸ばす。炭治郎も迎え撃とうとしているが、刀を構えなおす時間が足りない。
「終わりだ小僧!!」
鬼が高らかに叫ぶ。炭治郎の顔が悔しげにゆがんだ、その時だった。
『どこを見てるの!?こっちだよ!!』
その場にいないはずの別の声が響き、鬼と炭治郎の肩がはねる。今聞こえてきた声に、二人は聞き覚えがあった。それは
(今の声は、まさか、まさか!?)
そんなはずはない、と鬼は目を向けた。今の声は覚えていた。かつて自分に挑み、自分に敗れ喰われたはずの少女の声。
――まごうことなき、真菰の声だった。
そんなはずはなかった。真菰は確かに自分が殺して食った。それは確かだ。それなのに何故、奴の声がする。
だがいくら探しても声の主はどこにもいない。いるのは赤い鉢巻をした、青髪の少女だけ。
――まさか
鬼は目を見開き、汐の顔を凝視する。その顔には、してやったりと言いたげな悪戯じみた笑みが張り付いていた。
汐が真菰の声を模写し、鬼の隙をついたのだ。