第96章 役者は揃った<壱>
外ではまきをと須磨の二人が、町の人々の避難誘導を行っている声が聞こえ、敵が増えたことに腹正しさを感じたのか、妓夫太郎は顔を掻き毟る手の速度を上げた。
「下っぱが何人来たところで、幸せな未来なんて待ってねぇからなあ。全員死ぬのに そうやって瞳をきらきらさすなよなあぁ」
そう言う妓夫太郎をみて、炭治郎の身体が微かに震えた。
(汐の言う通り、鬼が二人になっているうえに帯鬼も死んでいない。どっちも上弦の陸なのか?分裂している?だとしたら・・・)
(本体はこっちの昆布頭の方だわ。目が尋常じゃないくらいやばいもの。だけど、こんなところで引くわけには・・・)
汐と炭治郎の手が微かに震えているのは、疲労か、それとも恐れか。しかしそれでも、こんなところで死ぬわけにはいかない。勝たねばならない。
何とか自分自身を鼓舞しようとしたとき、空気を切り裂くような静かな声が響いた。
「勝つぜ。俺達鬼殺隊は」
頭上から降ってきた力強い声に、炭治郎は勿論汐の手の震えも止まった。だが、それを否定する堕姫の声が響き渡った。
「勝てないわよ!頼みの綱の柱が、毒にやられてちゃあね!!」
(!?)
(毒!?)
汐と炭治郎は思わず振り返り、宇髄の顔を見つめた。しかし、宇髄は心配無用というように再び声を上げた。
「余裕で勝つわボケ雑魚がぁ!!毒回ってるくらいの足枷あってトントンなんだよ、人間様を舐めんじゃねぇ!!」
その言葉が虚勢であることは汐も炭治郎も見抜いていた。現に彼の顔色は悪く、皮膚も不気味に爛れている。
だが、それでも宇髄はさらに声を張り上げた。
「こいつらは三人共、優秀な俺の“継子”だ!逃げねぇ根性がある」
「フハハ、まあな!」
その言葉に伊之助は気をよくしたのか、得意げに胸を張った。そしてさらに、宇髄の大きな手が汐の背中をたたいた。
「そして何より俺達には天下の歌姫、ワダツミの子がついてんだ!!こいつが何を意味するか、お前らにわかるか?」
宇髄の言葉に汐の目頭が熱くなり、鬼達は顔を歪ませながら彼を睨みつけていた。