第96章 役者は揃った<壱>
(特殊な火薬玉だなぁ。鬼の体を傷つける威力。斬撃の僅かな摩擦で爆ぜる。気づかねぇで斬っちまって喰らっちまったな。すぐ攻撃喰らうからなぁ、アイツは)
だが、攻撃に転じようとした妓夫太郎の頸に、躱したはずの刀身が再び迫っていることに気づいた。
(刀身が伸びっ・・・)
これには流石の妓夫太郎も顔色を変えた。視線を動かした先には、宇髄が左手の指先だけでもう片方の刀身を持っているのが見えた。
(刃先を持ってやがる!!どういう握力してやがる)
妓夫太郎は直ぐに左手で刀を弾くが、その頸筋からは一筋の赤い雫が零れ落ちていた。
「チッ、こっちは仕留め損なったぜ」
宇髄は舌打ちをしながら刀を反動で自分の所に戻した。その傍らでは
「うううう!!また頸斬られた!!糞野郎!!糞野郎!!絶対許さない!!」
先程宇髄に頸を斬られた堕姫が、喚きながら自身の頭部を抱えていた。
「悔しい、悔しい!!なんでアタシばっかり斬られるの!!あああっ、わああ!!」
喚き続ける堕姫をしり目に、妓夫太郎は目を細めながら静かに言い放った。
「お前、もしかして気づいてるなぁ?」
「何に?」
そう言う宇髄は笑みを浮かべるが、その顔からは脂汗が零れ落ち、心なしか顔色も悪くなっているようだった。
「・・・気づいた所で意味ねぇけどなぁ。お前は段々死んでいくだろうし、こうしてる間にも、俺たちはじわじわと勝ってるんだよなぁ」
妓夫太郎は再び顔中を掻き毟りながら、頭を振った。だが、そんな空気を壊すような、大声が辺りに響き渡った。
「それはどうかな!?俺を忘れちゃいけねぇぜ。この伊之助様と、その手下がいるんだぜ!!」
爆発が止み、開けられた大穴から刀を高々と掲げる伊之助と、女性の装いで鼻提灯を出している善逸の奇妙な二人組が飛び込んできた。
「なんだ、こいつら?」
その場に似つかわしくないような闖入者に、流石の妓夫太郎も面食らう。そんな中、宇髄の頭上からパラパラと芥が降り注いだかと思うと、青色と緑色のものが彼の前に降りてきた。
それは、互いに羽織をひるがえし、宇髄を庇うように立つ汐と炭治郎の二人だった。