第96章 役者は揃った<壱>
「手足が千切れても喰らいつくぜ!!そして、てめぇらの倒し方は既に俺が看破した」
その堂々たる出で立ちは、かつて汐達が見た誇り高き戦士、煉獄杏寿郎の姿と重なった。
「同時に頸を斬ることだ!二人同時にな。そうだろ!!そうじゃなけりゃ、それぞれに能力を分散させて、弱い妹を取り込まねぇ理由がねぇ!!ハァーッハッハ、チョロいぜお前ら!!」
すると宇髄の笑い声にかぶせるように、伊之助の高笑いが響き渡った。
「グワハハハ、なるほどな簡単だぜ。俺たちが勝ったも同然だな!!」
あまりにも短絡的な思考をする男二人に、汐は軽く眩暈を起こしそうになった。だが、こういうのは嫌いじゃない。
それどころか先ほどの恐れは消え失せ、体が熱くなってきた気がした。
だが、妓夫太郎はそんな汐達を嘲笑うように、口元を大きくゆがめた。
「その“簡単なこと”ができねぇで、鬼狩りたちは死んでったからなあ。柱もなあ、俺が十五で妹が七、喰ってるからなあ」
「そうよ、夜が明けるまで生きてた奴はいないわ。長い夜はいつもアタシたちを味方するから。どいつもこいつも死になさいよ!!」
堕姫が宇髄の背後から帯を伸ばしてきた。しかしその攻撃は宇髄たちに届く前に、雷鳴のような轟音にさえぎられた。
「善逸!!」
善逸の攻撃は堕姫を屋根の上へと打ち上げた。
「蚯蚓女は俺と寝ぼけ丸に任せろ!!お前等はその蟷螂を倒せ!!わかったな!!」
「わかった、気を付けろ!!」
「死ぬんじゃないわよ!死んだら殺すからね!!」
炭治郎と汐の言葉に、伊之助は刀を振り回しながら頷き、善逸と堕姫を追って走り去っていった。
「妹はやらせねえよ」
妓夫太郎はそう言って、口を耳まで裂けるように歪ませた。それを見て、汐も同じように口元を歪ませながら言い放つ。
「こっちこそ、さっきの借りをまとめて返してやるわ。あの糞女にやられた分もね!!」
汐の挑発的な言葉に、妓夫太郎は表情を思い切り歪ませるのだった。