第96章 役者は揃った<壱>
「ぐぬぅう、だったらどう説明する?」
妓夫太郎は唸り声のようなものを上げながら、再び身体を掻き毟りだした。
「お前がまだ死んでない理由はなんだ?俺の“血鎌”は猛毒があるのに、いつまで経ってもお前は死なねぇじゃねぇかオイ、なあああ!!」
しかし宇髄はその事実に怯むことなく冷静に言い返した。
「俺は忍びの家系なんだよ。耐性つけてるから、毒は効かねぇ」
「忍びなんて江戸の頃には絶えてるでしょ!嘘つくんじゃないわよ!」
堕姫は喚く様に否定するが、その言葉を宇髄はさらに冷静に否定した。
(嘘じゃねぇよ。忍は存在する。姉弟は九人いた。十五になるまでで七人死んだ。一族が衰退していく焦りから、親父は取り憑かれたように厳しい訓練を俺たちに強いた。生き残ったのは、俺の二つ下の弟のみ。そして弟は、親父の複写だ)
宇髄の脳裏に、感情のないひたすらに無機質な目をした弟の姿が蘇った。
(親父と同じ考え、同じ言動、部下は駒、妻は跡継ぎを産むためなら死んでもいい。本人の意志は尊重しない、ひたすら無機質。俺は、あんな人間になりたくない)
そんな運命をたどることに嫌気がさした宇髄は、三人の妻と共に逃げるように里を抜けた。そんな中、彼らが出会ったのは鬼殺隊当主である産屋敷輝哉だった。
『つらいね天元、君の選んだ道は』
花の舞う中、彼は優しい視線を宇髄たちに向けながら、優しい声色で言った。
『自分を形成する幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら、戦いの場に身を置き続けるのは苦しいことだ。様々な矛盾や葛藤を抱えながら君は、君たちは、それでも前向きに戦ってくれるんだね。人の命を守るために。ありがとう。君は素晴らしい子だ』
その言葉を聞いた瞬間、宇髄は自分の選んだ道が正しかったことを確信したのだった。
(俺の方こそ感謝したいお館様、貴方には。命は懸けて当然、全てのことはできて当然、矛盾や葛藤を抱える者は、愚かな弱者。ずっとそんな環境でしたから)