第96章 役者は揃った<壱>
帯の防御を解いた妓夫太郎は、宇髄の顔を舐めるように見据えながら言った。
「お前違うなぁ。今まで殺した柱と違う」
妓夫太郎の言葉に怪訝な表情を浮かべる宇髄に、彼は地を這うような声色でつづけた。
「お前は生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ。選ばれた才能だなぁ。妬ましいなぁ、一刻も早く死んでもらいてぇなぁ」
「・・・才能?ハッ」
妓夫太郎の言葉を聞いた宇髄は、鼻を鳴らし、自嘲的な笑みを浮かべながら嘲るように言い放った。
「俺に才能なんてもんがあるように見えるか?俺程度でそう見えるなら、テメェの人生幸せだな。何百年生きていようが、こんな所に閉じ込もってりゃあ世間知らずのままでも仕方ねぇのか」
『100年以上も無駄に生きているから、目も耳も耄碌してるようね』
その言葉を聞いて、先ほどの汐の言葉が蘇ったのか堕姫は顔を歪ませ、妓夫太郎は口を閉ざしながら宇髄の言葉を聞いていた。
「この国はな広いんだぜ。凄ェ奴らがウヨウヨしてる。得体の知れねぇ奴もいる。刀を握って二月(ふたつき)で柱になるような奴もいる。俺が選ばれてる?ふざけんじゃねぇ」
先程の笑みから一変し、宇髄は怒りに満ちた顔で二人を睨みながら鋭く言った。
「俺の手の平から、今までどれだけの命が零れたと思ってんだ」
(そう。俺は煉獄のようには出来ねぇ)
宇髄の脳裏に、多くの人々の命を救い散っていった煉獄の姿が蘇る。