第95章 バケモノ<肆>
その頃。
妓夫太郎の繰り出す攻撃に、宇髄は逃げ遅れた一般人を庇いつつ何とかしのいでいる状態だった。
「妬ましいなぁあ。お前本当にいい男じゃねぇかよ、なぁあ。あの女と他の人間庇ってなぁあ。格好つけてなぁあ。いいなぁ」
そんな彼に、妓夫太郎は身体を掻き毟りながら、恨めしそうに言葉を紡ぐ。
「そいつらにとって、お前は命の恩人だよなあ。さぞや好かれて感謝されることだろうなぁあ」
そんな妓夫太郎に、宇髄は涼しい顔で答えた。
「まぁな、俺は派手で華やかな色男だし当然だろ。女房も三人いるからな」
その言葉を聞いた瞬間、妓夫太郎の動きが止まった。かと思いきや、先ほどよりも激しく顔を掻き毟りながら言った。
「お前女房が三人もいるのかよ。ふざけるなよなぁ!!なぁぁぁ!!許せねぇなぁぁ!!」
それは許容範囲外だったのか、妓夫太郎は激高したように叫ぶと腕を大きく振り上げた。
血鬼術――
――飛び血鎌
妓夫太郎の腕から血の色をした斬撃が宇髄に向かって放たれ、宇髄は捌こうと日輪刀を構えた。
だが、その数を人を守りながら捌くのは無理があった。
なら!!
宇髄は咄嗟に刀を振り上げると、床に向かってその刃を叩きつけた。轟音と共に床が吹き飛び、土煙と畳の繊維がもうもうと上がる。
そのまま彼は一般人ごと下に降りると、彼等に直ぐに逃げるように言い放った。
「逃げろ!!身を隠せ!!」
「はっ、はい」
しかし妓夫太郎はそれを許さないと言わんばかりに、血の斬撃を再び放った。
「逃がさねぇからなぁ。曲がれ、飛び血鎌」
すると妓夫太郎の声に呼応するように、斬撃は急速に曲がると宇髄たちに向かってその刃を振るった。