第95章 バケモノ<肆>
汐と炭治郎が思わず視線を向けると、そこには骨のような持ち手と真っ赤な刃の色をした鎌のようなものだった。
(何だあれは、鎌か?)
呆然とする炭治郎とは対照的に、汐はその鎌に覚えがあり叫んだ。
「あれはもう一匹の鬼がもっていた鎌よ!!」
汐が叫んだ時、飛び上がった鎌はすさまじい勢いで回転しながら建物の中に戻っていった。
その時、炭治郎の鼻が微かに宇髄の血のにおいをかぎ取った。
(宇髄さんの血の匂い・・・!怪我をしているんだ!加勢しなければ・・・!!)
しかし禰豆子を抱えたまま戻るわけにもいかず、汐の手当てもしなければならない炭治郎は焦りを顔に張り付けたまま唇をかんだ。
その時だった。
「俺が来たぞコラァ!!御到着じゃボケェ!!頼りにしろ、俺をォォ!!」
背後から聞き覚えのある声が響き、汐と炭治郎が振り返るとそこには。
猪の皮をかぶった、いつもの格好の伊之助と。女性の格好をしたまま鼻提灯を出しながら走り寄ってくる善逸の姿があった。
「善逸!伊之助!!あんた達無事だったのね!?っていうか、善逸。あんた何よその恰好!!」
伊之助はともかく、行方知れずだった善逸の姿を見て汐は思わず表情を緩ませた。だが、あまりにもこの状況に似つかわしくない格好に、次の瞬間には顔が引きつった。
「二人とも宇髄さんを加勢してくれ!!頼む!!」
「任せて安心しとけコラァ、大暴れしてやるよ、この伊之助様がド派手にな!!」
目を光らせて親指を立てる伊之助に、汐は彼が影響を受けやすい性格だということを改めて理解した。
そんな彼に特に突っ込むこともなく、炭治郎は安心したように言った。
「すまない、俺は禰豆子を箱に戻してくる!少しの間だけ許してくれ!」
「許す」
「それと汐の怪我の手当てもしてくる。かなり無理をさせてしまったんだ!」
「仕方ねぇな、許してやる!」
「ちょっと!なんであたしだけ上から目線なのよ!!」
伊之助の言葉に憤慨する汐の手を引き、炭治郎は禰豆子を抱えたまま先ほどの場所へ向かって走り出した。