第95章 バケモノ<肆>
一方。
宇髄に投げ飛ばされるようにして逃がされた汐は、地面に叩きつけられる寸前に受け身を取りどうにか大きな怪我は避けられた。
しかしその際に思い切り臀部を打ち付けてしまったのか、鈍い痛みが走った。
「汐!!」
聞き慣れた声がして振り返ると、そこには禰豆子を抱えて立ち尽くしている炭治郎の姿があった。
「炭治郎!!」
汐は炭治郎が無事だったことと、禰豆子が元に戻っていることに安堵するが、同時に自分のせいで禰豆子が豹変してしまった事を思い出した。
(あたしが軽率なことをしたから、禰豆子があんなふうになってしまった。あたしが周りをもっときちんと見ていれば、こんなことにはならなかったッ・・・!)
悔し気に唇をかみしめる汐から後悔とと苦悩の匂いを感じた炭治郎は、そんな汐の頭を優しくなでながらしっかりした声で言った。
「お前のせいじゃない」
汐は驚いて炭治郎の顔を見つめると、彼は相も変わらず綺麗な眼で汐を優しく見つめていた。彼自身も傷を負い、辛いはずなのに何故このような眼をすることができるのだろう。
(そうだ。後悔なんて後でいくらでもできる。今はあいつらのことを炭治郎に伝えないと・・・!)
汐は慌てて首を横に振ると、炭治郎に先ほどの出来事を伝える為に口を開いた。
「大変よ炭治郎。あの女、頸を斬っても死ななかったの!」
「死ななかった?どういうことだ?」
「わからない。それどころかあいつの背中からもう一匹の鬼が飛び出してきて、二匹になったわ。しかもそいつ、とんでもなく素早くて、ウタカタがなければあたしは・・・」
あの時の恐怖が蘇ったのか、汐は身体を震わせた。炭治郎はにわかには信じられなかったが、汐からは嘘のにおいなど微塵もせず、何よりこの状況でくだらない嘘を吐くような人間ではないことを誰よりも理解していた。
「と、とにかく!いくら柱とは言え上弦の鬼二匹を相手には厳しいかもしれないわ。あたしたちもなんとか加勢して・・・」
汐がそこまで行った時。突然建物の中から轟音を立てて何かが飛び出してきた。