第95章 バケモノ<肆>
汐を外に逃がし、すぐさま向かってきた鬼に応戦する宇髄だったが、鬼の持っていた鎌が彼の頭部に大きな傷をつけた。
額当てが破損し、銀糸の髪がばらけそこから血が流れだす。
「へぇ、やるなぁあ、攻撃止めたなぁあ。殺す気で斬ったけどなぁぁ。いいなあお前、いいなあ」
鬼はゆらゆらと身体を揺らしながら、妬ましそうに宇髄を睨みつけていた。
遊郭には客の呼び込みや集金などを行う妓夫(ぎゅう)という役職に就く男が存在する。
その男は人間であった頃、その役職についていた彼は名を持たず、役所名をそのまま付けられ【妓夫太郎(ぎゅうたろう)】と名乗っていた。
そして鬼となった今でも、彼はその名を名乗っている。
妓夫太郎は顔をぼりぼりと掻き毟りながら、じとりとした目で宇髄を見据えながら言った。
「お前いいなぁあ。その顔いいなぁあ。肌もいいなぁ。シミも痣も傷もねぇんだな」
宇髄は口を引き結んだまま言葉を発しなかったが、妓夫太郎はそのまま続けた。
「肉付きもいいなぁ、俺は太れねぇんだよなぁ。上背もあるなぁ。縦寸が六尺は優に越えてるなぁ。女にも嘸かし持てされるんだろうなぁあ」
妓夫太郎はさらに激しく身体を掻き毟り、血が流れだしても構うことなく恨めしそうに宇髄を睨みつけていた。
「妬ましいなぁ、妬ましいなぁあ、死んでくれねぇかなぁあ。そりゃあもう苦しい死に方でなぁあ、生きたまま生皮剥がれたり、腹を掻っ捌かれたり、それからなぁ・・・」
「お兄ちゃん、コイツだけじゃないのよ、まだいるの!!アタシを灼いた奴らも殺してよ絶対」
堕姫は未だに涙を流しながら、必死で兄である妓夫太郎に訴えた。
「アタシ一生懸命やってるのに、凄く頑張ってたのよ一人で・・・!!それなのに、皆で邪魔してアタシをいじめたの!!よってたかって いじめたのよォ!!」
「そうだなあ、そうだなあ、そりゃあ許せねぇなぁ。俺の可愛い妹が足りねぇ頭で一生懸命やってるのを、いじめるような奴らは皆殺しだ。取り立てるぜ、俺はなぁ。やられた分は必ず取り立てる」
――死ぬ時ぐるぐる巡らせろ。俺の名は妓夫太郎だからなあ!!
妓夫太郎はそう叫んで、両手に持っていた鎌を思い切り振り上げた。