第94章 バケモノ<参>
「ちょっと待ちなさいよ、どこ行く気!?」
宇髄と汐が立ち上がろうとしたとき、頸が落ちたままの堕姫が甲高い声で喚いた。
「よくもアタシの頸を斬ったわね、ただじゃおかないから!」
「まぁだ、ギャアギャア言ってんのか。もうお前に用はねぇよ、地味に死にな」
そんな堕姫に、宇髄は興味がないように一瞥すると汐に先に行くように促した。
「ねえあんた、さっきこいつが上弦の鬼じゃないって言ったのはどういう事?こいつの目にちゃんと数字が刻まれてるじゃない」
「あー、あれはそのままの意味だ。こいつは上弦の陸なんかじゃねえ」
「アタシは上弦の陸よ!!」
宇髄の言葉を聞いていたのか、堕姫は金切り声を上げながら言い放った。しかし頸を斬られているせいか、何を言っても負け惜しみにしか聞こえなかった。
「だったらなんで頸斬られてんだよ。弱すぎだろ、脳味噌爆発してんのか?」
相も変わらず歯に衣着せぬ物言いに、汐も呆れたように宇髄と堕姫を見比べていると、堕姫はさらに声を荒げた。
「アタシはまだ、負けてないからね、上弦なんだから!」
「負けてるだろ、一目瞭然に」
「アタシ本当に強いのよ。今はまだ陸だけど、これからもっと強くなって・・・」
「説得力ねー」
堕姫の言い訳じみた言葉に、宇髄は冷静に言葉を返していくと、次の瞬間。彼女は突然火のついたように泣き出した。
「わーーーーん!!」
大粒の涙を流し泣き喚く堕姫に、汐は勿論、宇髄ですらぎょっとした表情で凝視した。
「本当にアタシは上弦の陸だもん、本当だもん。数字だって貰ったんだから、アタシ凄いんだから!」
まるで子供のように泣きわめく堕姫に、汐は段々と苛立たしさを感じながら睨みつけた、その時だった。