第94章 バケモノ<参>
(まずいわ。周りには逃げ遅れた連中もいるし、炭治郎は禰豆子を抑えるので手一杯。あたしが、あたしがなんとかしないと・・・)
「へぇ。中々いい姿になったんじゃないの。流石、吉原に名をはせた花魁は違うわね」
汐は思い切り皮肉を込めてそう言い放つが、堕姫は汐にはもう興味はないと言った様子でその視線を合わすことなく禰豆子だけを睨みつけていた。
もはや汐の挑発すら、堕姫の耳には届かなかった。
堕姫の帯はグネグネとうねり、今まさに建物ごと切り裂こうとしたその時だった。
「おい、これ、竈門禰豆子じゃねーか。派手に鬼化が進んでやがる」
この場に似つかわしくないような声が響き、汐が思わず振り返るとそこには炭治郎と禰豆子の傍に音もなく近寄った、宇髄の姿があった。
彼は暴れる禰豆子をまじまじと見ながら、呆れたように鼻を鳴らした。
「お館様の前で大見栄切ってたくせに、なんだこの体たらくは」
いきなり現れたその男から、堕姫はとてつもない気配を感じ、彼が柱であることを見抜いた。
「柱ね、そっちから来たの。手間が省けた・・・」
「うるせぇな。お前と話してねーよ、失せろ」
だが、堕姫の言葉を宇髄は静かに遮り言い放った。
「お前上弦の鬼じゃねぇだろ。弱すぎなんだよ。俺が探っていたのはお前じゃない」
その言葉に堕姫だけではなく、汐も驚いた顔で宇髄を凝視した。が、次の瞬間。
堕姫の頸がごろりと落ち、彼女自身の手の中に納まった。
「え?」
堕姫はそのまま呆然とした表情で、自分の頸を抱えながら座り込んだ。その速さに汐と炭治郎は唖然とした表情で堕姫と宇髄を見比べた。