第94章 バケモノ<参>
一方その頃。暴れ続ける禰豆子を、汐は必死で押さえつけていた。
身体のあちこちは禰豆子の鋭い爪で引っ掻かれて血が滲み、のたうち回ったせいかあちこちに青あざができているうえに、体力も限界に近かった。
「禰豆子・・・!お願い・・・だから・・・!」
何度も歌を歌ったせいか、汐の声はすでに枯れてかすれてしまっていた。しかしそれでも汐は禰豆子を放さなかった。放すわけにはいかなかった。
例え命に代えても、禰豆子に人を傷つけさせるわけにはいかない。
だが、汐の身体は確実に悲鳴を上げ、力もだんだんと弱まりつつあった。そしてついに・・・
「あっ!!」
禰豆子は身体を大きく捩り、汐の手を無理やり引き剥がすと倒れている人間に躍りかかった。
「禰豆子ーーッ!!!」
汐の叫びも虚しく、今まさに禰豆子の爪が振り下ろされようとしたその時だった。
「禰豆子!!!」
聞き慣れた声と共に、緑色の羽織が目の前を翻った。
「だめだ!!耐えろ!!」
炭治郎が暴れる禰豆子の口に刀の峰を噛ませ、押さえつけていた。
「炭治郎・・・ッ!!」
汐は安堵から涙を流すが、すぐさま振り払って叫んだ。
「炭治郎、どうしよう!ウタカタが効かないの。何度歌っても禰豆子が眠ってくれないの!あたし、あたし・・・!!」
だが汐が訴える間も、禰豆子は激しく暴れ炭治郎を押しつぶすように倒れこんだ。
「炭治郎・・・!」
「来るな汐!大丈夫だ!!俺が、俺が必ず何とかするから・・・!!」
禰豆子を必死で抑えながら、炭治郎は汐を一瞥して顔を歪ませた。汐の身体はたくさんの傷がつき血を流していた。
周り中あちこちから汐と禰豆子の血の匂いを感じ、二人がそれだけ傷ついたことを表していた。