第93章 バケモノ<弐>
『汐って、助けてってあまり言わないよな』
それはいつだったか、汐が久しぶりに蝶屋敷を訪れ炭治郎と談笑していた時の事だった。
『何よ藪から棒に』
『今まで汐のことはずっと見てきたけれど、汐は何があっても自分で解決しようとするところがあるから心配なんだ』
炭治郎の少し悲しそうな眼が、汐の心に小さく突き刺さった。
『だって、みっともないって思っちゃうんだもの。助けを求めるってなんだか自分の弱さを認めちゃうような気がして』
汐はそう言って目を伏せると、炭治郎はきょとんとした表情で彼女を見つめていった。
『それってそんなに悪いことか?自分一人じゃできないことなんてたくさんある。それにそのせいで汐が傷つくところなんて俺は絶対に見たくはない。俺はそんなに頼りないか?』
『そんなこと・・・ないわよ。あたしはあんたに迷惑を掛けたくないだけ』
『迷惑だなんて思うもんか。俺たちは仲間だろう?助けを求められて迷惑だなんて思う仲間なんて、いるわけがない。だから、もしも汐がどうにもならないことに出くわしたら、迷わず俺を呼んでくれ。俺じゃなくても善逸や伊之助だっているんだ。だから約束してくれ。何かあったら、俺達を頼ってくれると――』