第93章 バケモノ<弐>
参ノ旋律――
――束縛歌!!!
禰豆子の体の動きが一瞬止まり、その隙に禰豆子の身体に赤い鉢巻が巻き付いた。
「禰豆子駄目ーーーッ!!!」
そのまま汐は禰豆子の両手を拘束すると、口に刀の峰を噛ませた。
しかし禰豆子は汐の声が聞こえていないのか、何とか拘束を解こうと必死で藻掻く。
「お願い禰豆子、落ち着いて!!堪えて!お願い!!眠って!眠って力を回復させて!!」
汐は全身全霊で暴れる禰豆子を押さえつけ、そんな二人を遊女たちは呆然と見ていた。
「何をしている!!さっさと逃げろ!!」
そんな彼女たちに汐は鋭い言葉を投げつけると、必死に禰豆子を抑えた。
(なんて力・・・!!気配もいつもの禰豆子じゃない!あたしが、あたしがへまをしたせいで禰豆子をこんな目に・・・。こんな姿を見たら炭治郎、きっと悲しむし、正気に戻ったら禰豆子も傷つく。何とかしないと・・・!)
暴れる禰豆子を必死で押さえつけながら、汐は口を開き息を大きく吸った。
――ウタカタ・弐ノ旋律――
――睡眠歌(すいみんか)。
汐の口から透き通るような優しい歌声が漏れ、あたり中に響き渡る。普通の人間や鬼なら、瞬く間に眠ってしまう旋律だ。
だが、その旋律は禰豆子の耳には届かず、ついに汐の鉢巻きが解けてしまった。
禰豆子はそのまま、汐の鳩尾に肘を叩き込んだ。
「ぐっ・・・!!!」
その衝撃と痛みで汐の歌は中断され、禰豆子はさらに激しく暴れ出した。
(駄目・・・、ウタカタが効かない。聴いてくれない・・・!)
汐は何度も歌を歌ってみるが、禰豆子は一向に眠らず暴れるばかりだ。
(あたしじゃダメなんだ・・・!他人のあたしじゃ、禰豆子を抑えきれない。どうしたら・・・どうしたらいいの・・・!?誰か・・・!!)
目には涙がたまり、汐の心に絶望がわき始めたその時、彼女の脳裏にある出来事が蘇った。