第93章 バケモノ<弐>
「げぅっ・・・!!」
堕姫は絞り出すようなうめき声をあげ、口から血を吹き出した。その背中には切断したはずの禰豆子の足が突き刺さり、地面へと縫い付けられるようにして貫かれていた。
(何で切り落とした足が、アタシの背中を貫通してるのよ)
混乱する堕姫だが、その答えは一つしかない。斬り落とした禰豆子の足が瞬時に再生し、彼女の身体を貫いたのだ。
(一瞬で再生した!?そんな!!だったら、アタシの再生速度を上回ってるじゃない!!)
いくら上弦の鬼といえども、瞬時に再生することなどは不可能だ。しかし禰豆子は、その不可能を可能にするほどの潜在能力を秘めていた。
しかしそれは同時に、人間から離れて行くことを意味する。現に、傷つく堕姫を見下ろす禰豆子の顔には、狂気じみた笑みが浮かんでいた。
その気配は、倒れ伏していた汐にも届き、尋常じゃない様子に彼女ははっと目を覚ました。
数分間意識を飛ばしていた汐は、口の中に残った血を吐き出しあたりを見回した。
(意識飛んでた・・・。あたしが寝ている間に一体何が?それにこの気配・・・。禰豆子・・・なの?)
いつもの禰豆子の気配とはかけ離れたものに、汐は嫌な予感を覚え、重い体を叱咤しながら立ち上がった。
(禰豆子・・・!どこにいるの・・・!?)
汐が辺りを見回すと、下の方で何かがぶつかるような激しい音がした。汐はすぐさま屋根を下りると、音のする方へ駆け出した――。