第93章 バケモノ<弐>
(蹴るしか能が無いのか!!)
「雑魚鬼が!!」
しかし堕姫は慌てる様子もなく、帯の一本で禰豆子の足を容赦なく斬り落とした。禰豆子が斬り落とされた膝に一瞬視線を向けたその隙に、堕姫のもう一本の帯が禰豆子に迫った。
禰豆子は咄嗟に腕で帯を受け止めようとするが、帯は禰豆子の腕ごと胴体を薙ぐとそのまま横方向に吹き飛ばした。
そのせいで、彼女の口枷の紐が片方切れた。
吹き飛ばされた禰豆子の身体は建物にぶつかり、轟音を立てて土ぼこりを巻き起こした。
堕姫は静かに屋根上から降りると、瓦礫の中で倒れ伏す禰豆子を侮蔑を込めた眼で見降ろした。
「弱いわね、大して人を喰ってない。なんであの方の支配から外れたのかしら?」
禰豆子は血を流しながらも瓦礫の中から這い出ようと必死に腕を動かした。
「可哀想に。胴体が泣き別れになってるでしょ。動かない方がいいわよ」
堕姫は禰豆子に憐れむような言葉を投げかけるが、それは形だけのものでその言葉に気持ちなどは微塵も籠っていなかった。
「アンタみたいな半端者じゃ、それだけの傷、すぐには再生できないだろうし」
しかし禰豆子はその言葉を聞く気はなく、脂汗を浮かべながらも必死で藻掻いていた。
「同じ鬼だもの、もういじめたりしないわ。帯に取り込んで、朝になったら日に当てて殺してあげる。鬼同士の殺し合いなんて時間の無駄だし・・・」
堕姫の嘲るような言葉は、禰豆子が立ち上がったことにより途切れ、その姿を見て眼を大きく見開いた。