第93章 バケモノ<弐>
血を流し倒れ伏す汐を庇うように立ち、禰豆子は唸り声を上げながら堕姫が吹き飛んだ方向を睨みつけていた。
そして彼女の脳裏に浮かぶのは、かつて自分の家族を奪われた断片的な記憶。
堕姫は上弦の鬼。それはすなわち、今まで禰豆子が遭遇したどの鬼よりも無惨の血が濃かった。
「よくも・・・、よくもやったわね!!アンタ・・・アンタもなのね。あの方が言っていたのは・・・!」
堕姫は頭を再生させながら、先ほど以上に憎悪のこもった眼で禰豆子を睨みつけた。
『私の支配から逃れた鬼がいる。珠世と同じように』
堕姫の記憶の中で、無惨は彼女の頭を優しくなでながら言葉を紡いだ。
『見つけて始末してくれ、お前にしか頼めない。麻の葉紋様の着物に、市松柄の帯の娘だ』
目の前にいる鬼の少女禰豆子は、無惨が言っていた対象の特徴と一致していた。
青髪の娘にもう一人の逃れ者。その二人を目の前にして、堕姫は高らかと叫んだ。
「ええ勿論、なぶり殺して差し上げます。お望みのままに・・・!!」
堕姫が禰豆子に向かって帯を放とうとした瞬間、禰豆子の姿が目の前から消えた。と、思いきや、禰豆子は瞬時に堕姫との距離を詰め、その顔面に向かって足を振り上げていた。