第11章 二つの刃<壱>
「フヒヒヒ、また鱗滝の弟子が一人死んだ。奴め、また自分の弟子が帰ってこなくてどんな顔をするだろうな。絶望するか、悲しむか・・・ヒヒヒ、見たかったなあ・・・」
鬼は心底うれしいといった様子で腕を伸ばさんと力を込めた。
このままでは炭治郎が死んでしまう!汐の脳裏に、失った人たちの顔が浮かんだ。
――やめろ、やめろ!これ以上あたしから、大事なものを奪うな!!
鬼が腕を伸ばすほんの少し前に、汐の体が動いた。そして、伸ばされた腕は土煙を上げ、木をなぎ倒す。
「ああ?」
鬼が怪訝な声を上げる。土煙が収まった場所にいたのは、炭治郎を抱えたままこちらを睨みつける、青い髪に赤い鉢巻をなびかせ、狐の面をつけた少女がいた。
「またいたのか。鱗滝の弟子が・・・ん?」
鬼の眼が汐の赤い鉢巻に止まる。その色と形に鬼は見覚えがあった。それは、鱗滝とともに自分を捕らえた憎き鬼狩り。
「思い出した、思い出したぞ!それは、それは|大海原の鉢巻き!!まさか、まさか|大海原に弟子がいたのか!?奴は生きていたのか!?」
鬼は一通り声を荒げた後、今度は嬉しそうにその両目を細めた。
「だがこれで、奴にまで復讐できる!奴の弟子を殺すことができる!!ああ今夜はなんていい夜なんだ!!これほどまでにうれしい夜は初めてだああああ!!」
鬼の声が高らかに響き渡る。その声は空気を震わせ、汐の肌を粟立たせる。だがそれよりも、炭治郎の身の安全が最優先だ。
汐は持ってきていた布を炭治郎の傷口に当て止血を試みた。